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「あのねぇ、スズキさん。そんなふうに説明されても、わたしゃ年寄りだからね、機械の操作が本当に分からなくて。あっ、そうだ。よかったらあなた、銀行に来て直接、振り込みのやりかたを教えてくださいません? あっ、無理か。あなた、東京とかそっちのほうにいらっしゃるんでしょ? 参ったわねぇ」
いよいよ本題だ。
敵は、スズキという女はここに来るか?
吟子も、板橋も、加奈も、支店長も。
だれもがじっと、大瀬良さんの口元に視線を送る――
「……はい、はい」
大瀬良さんの声が、少し震えた。
吟子の膝も、少し震えた。
「――ああ、あなた、いまこの光瀬町にいらっしゃるの!? あらま、奇遇ねえ。じゃあ、この銀行まで来てくれるのね!?」
「!!」
全員の目が見開いた。うまくいった!
詐欺師を、支店におびきよせることに成功したのだ。
やはり敵はこの町にいたらしい。板橋の考えは的中した。
「それじゃ、お願いしますねえ。待ってるからね。ごめんなさいねえ、本当に」
大瀬良さんは携帯を持ったまま。
ぺこぺこと、その場に相手がいるみたいに頭を下げた。
しかし、顔はニンマリと笑っていた。
大瀬良さんは携帯電話を切ると、右手で丸サインを作って、全員に見せたのだ。
「うまくいったわ。振り込め詐欺師、ここに来るそうよ」
と、いうわけで。
神山銀行光瀬町支店は店をあげて、警察と大瀬良さんに協力することになった。
これからATMにやってくるであろう、スズキという詐欺師。
その詐欺師がやってきた瞬間、逮捕するために。
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