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客を装った私服の警察官を、支店の中に数人、配置したのである。
大瀬良さんは支店の待合ロビー、その長椅子に腰かけて待機。
その横に板橋が座った。彼女も無論スーツ姿で、パッと見は警察だと分からない。
さらに、それだけではない。
警察は犯人を逃がさないために、支店の周囲にある木陰にも、私服警官をひそませたのだ。
詐欺師に疑われないために、支店の行員は全員、通常通りの仕事をしている。吟子もだ。
(ん?)
そのときだ。
吟子はふと、怪訝顔を作った。
四十前後の女性が、支店に入ってきたのだが。
一見して、あまり人相が良くない。背の高い、痩せぎすの女。
初夏だというのに帽子を深々とかぶり、長袖のGジャンを着て、ポケットの中に両手を突っ込んでいる。
その女は、きょろきょろと落ち着きなくあたりを見回す。
かと思うと、支店の椅子に腰かけている大瀬良さんに近付いていって、
「大瀬良さん」
と、声をかけた。
大瀬良さんは、はっと顔を上げる。
「あら。あなたが、もしかして……?」
「スズキです」
女性があいさつをした。
支店内の全員が、さっと顔を上げた。……この女が詐欺師か!?
さらに大瀬良さんの横にいる板橋も、チラッとスズキに目を向けて――
板橋とスズキの目が合った。
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