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その瞬間、スズキと板橋は、揃って露骨に目を見開いた。
「板橋!? お前、なんでここに――」
「あなた……杉山裕子じゃないの!?」
叫び合う、ふたりの女。
支店内に轟いた声音に、吟子はもちろん、だれもが一瞬あっけに取られ――
しかし我に返ったのが一番早かったのは、詐欺師のスズキであった。
「警察の板橋がいるなんて! くそっ、詐欺がバレたのか!」
スズキはそれだけ叫ぶと、長身を翻し、支店から逃げ出そうとする。
そんなスズキに、私服警官たちが「待て!」と駆け寄ったが、
プシューーーーーーッ!!
スズキはポケットに突っ込んでいた手を出すと、その手に持っていた小型スプレー缶を、警官たちに噴きつけた。
「う、うわっ!?」
「げほっ、げほっ……!」
警官たちは思い切り咳き込む。
銀行にもある、暴漢撃退用のスプレーに近いなにかのようだ。
スズキはそのまま、支店の外に飛び出る。そして支店の駐車場に駐車していたクルマに乗り込み――
「待ちなさいっ!」
吟子は、スプレーに咳き込む警官たちの横を通り抜けて、支店の外に飛び出した。
しかし、時すでに遅し。
あたりに響く、エンジン音。
もはや間に合わない。
(あの車……!)
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