4-③ その姿に覚えあり!

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 薄汚れたワンボックスカーが、田舎道を疾走し逃げ去っていく。  ご丁寧に、ナンバープレートの上にはガムテープまで貼られていた。 (用意周到な女!)  吟子は目を見張る思いだった。  あのスズキとかいう詐欺師は、万が一、だれかに目撃されることに備えていたのだ。  恐らく銀行に着いたあと、ナンバーの上にガムテープを貼ったのだろう。  それだけではない。警察が来ることも考えて、スプレーまで用意していたのだ。 「げほ、げほっ。……してやられました」  支店の中から、板橋が咳き込みながら出てきた。  吟子は慌てて彼女に駆け寄る。 「大丈夫ですか、板橋さん」 「はい。……不覚でした。私も、他の警察官も。これだけ準備しておいて、犯人を取り逃がすなんて」  心底悔しそうに、板橋は言った。  吟子はそんな板橋を見つめながら、 「――板橋さん。あのスズキと知り合いだったようですが?」  そのことを問うた。  すると板橋は、なおも咳き込みながら、 「もう何年も前に、振り込め詐欺で私が捕まえた女がいたんです。それが彼女です」  と、吟子の質問に答えてくれた。 「名前も、あれは杉山裕子といいます。スズキというのは偽名でしょう」 「なるほど、因縁の相手ってわけですね」  吟子はうなずいた。     
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