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薄汚れたワンボックスカーが、田舎道を疾走し逃げ去っていく。
ご丁寧に、ナンバープレートの上にはガムテープまで貼られていた。
(用意周到な女!)
吟子は目を見張る思いだった。
あのスズキとかいう詐欺師は、万が一、だれかに目撃されることに備えていたのだ。
恐らく銀行に着いたあと、ナンバーの上にガムテープを貼ったのだろう。
それだけではない。警察が来ることも考えて、スプレーまで用意していたのだ。
「げほ、げほっ。……してやられました」
支店の中から、板橋が咳き込みながら出てきた。
吟子は慌てて彼女に駆け寄る。
「大丈夫ですか、板橋さん」
「はい。……不覚でした。私も、他の警察官も。これだけ準備しておいて、犯人を取り逃がすなんて」
心底悔しそうに、板橋は言った。
吟子はそんな板橋を見つめながら、
「――板橋さん。あのスズキと知り合いだったようですが?」
そのことを問うた。
すると板橋は、なおも咳き込みながら、
「もう何年も前に、振り込め詐欺で私が捕まえた女がいたんです。それが彼女です」
と、吟子の質問に答えてくれた。
「名前も、あれは杉山裕子といいます。スズキというのは偽名でしょう」
「なるほど、因縁の相手ってわけですね」
吟子はうなずいた。
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