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どうりで、スズキ、もとい杉山裕子は板橋を見た瞬間、驚愕し、逃げ出したわけだ。
杉山裕子はあの瞬間、振り込め詐欺が警察にバレたと気が付いたのだ。
「杉山裕子が刑務所から出てきていたのは知っていましたが、まさかこんな形で再会するなんて……げほ、げほ。……しくじりました。大失態です」
板橋は悔しそうに言った。
しかし無理もない。振り込め詐欺の犯人が自分の顔を知っていたなんて、板橋にとっては計算外だったのだから。
だが。
「大丈夫です、板橋さん。杉山裕子、ですか? あの犯人の居場所は……分かります」
吟子はハッキリと言った。
計算外と言うのなら、杉山裕子にとっても計算外だろう。
神山銀行光瀬町支店に、五十嵐吟子がいたということは。
「杉山裕子が逃げるのに使った、さっきのワンボックスカー。ナンバーは見えませんでしたが、大丈夫。あたしはあの車に見覚えがあるんです」
「え!? ど、どうして!?」
板橋は驚愕の表情を見せる。
吟子はニヤリと笑って言った。
「お仕事って、ちゃんとしておくものですね」
吟子の脳裏には、数時間前の光景が。
そう、車のローンを売るために住宅街の車検シールを覗き込んでいたときの記憶がよみがえっていた。
光瀬町二丁目の片隅に停められていた、ボロボロのワンボックス。
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