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その片隅に、古ぼけた木造の一戸建てがある。
塀はない。
土地の上にぽつんと立っているだけの、ほとんどあばら家のようなその家屋。
築何十年だろうか。昭和の中ごろから建っていそうな一階建てだ。
出来たばかりのときは、もう少しきれいな家だったのだろうが。
そんな家屋の前にあるわずかなスペースには――
「あった」
板橋が、小さく叫んだ。
白のワンボックスが、そのわずかなスペースに駐車されていた。
ナンバーの上にはまだガムテープが貼られている。
急いでいたのか、慌てていたのか分からないが、ここに戻ってきたあと、テープも剥がないまま車を置いたようだ。
「五十嵐さん、ビンゴですよ。あれは間違いなくさっきの犯人、杉山裕子の車です」
「ええ。よかったですね、これで杉山を逮捕できます」
「本当に。これは感謝状ものですよ」
「感謝状よりも、板橋さん。……今度、家のローンや車のローンを警察の方にお願いしたいんですが」
「ちゃっかりしていますね、五十嵐さん。――分かりました。同僚の中で家や車を買いそうな人がいたら、五十嵐さんに紹介しましょう」
「ありがとうございます」
吟子は心の中で右手を挙げた。
警察官。すなわち公務員のセールス先をゲットである。
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