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言うまでもなく、ローンは安定した収入がある職業でないと組めない。
吟子がせっかく獲得したローン案件も、銀行本部から「この人はダメ」と却下されることもあった(却下された場合、当然営業の成績にはならない)。
だけど警察官ならば、よほどの借金でもない限り、まず審査は通る。
(やったね、あたし)
ニヤニヤが止まらない。
これで本当にローンを取れば、夏の賞与の査定も良くなる。
銀行の賞与査定は、上司からの勤務評価と、営業成績の目標達成具合によるのだ。
そして賞与をたくさん貰えば、これは上京費用になる。
「それじゃ、杉山の逮捕に向かいます。五十嵐さんは車の中にいてください」
「あたしは行かなくていいんですか?」
「ええ、ここまでくればあとは警察のほうでやりますから。犯人が暴れて五十嵐さんに危害が加わってもマズいですし」
それについては、確かにそうだ。
吟子はうなずき、覆面パトカーの中で待機することにした。
板橋以下、十数名の警察官が戸建ての玄関へと近付いていく。
さらに、逃亡防止のためだろう。家の裏手のほうにも警官がひとり、ふたりと移動していく。
その景色を、吟子は車の中から眺めていた。
(ま、なんとかなりそうね)
吟子としてはホッとした。
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