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「山田茶舗さんって、吟子さんは行ったことがあるかしら?」
「うちとは営業エリアが違うから、行ったことはないですね。名前は知っていますけど」
「あら、そう。だったらこの話、知らないわね。あそこ、今度営業をやめるらしいわ」
「本当ですか。こんなに美味しい羊羹を出すのに、もったいない」
「仕方ないわね。田舎の和菓子屋さんなんて、いまどき流行らないもの」
「…………」
「田舎はこうなる運命なのかしら。この商店街もいまや閑古鳥が鳴いているし……」
「村上さんは、頑張っていますよね」
「うちは冠婚葬祭があるからね。だから、いまでもそれなりにやっていけるのよ」
「あ、なるほど」
「そうそう、冠婚葬祭といえば、二丁目の大工のトメさんっていたじゃない。あの人、先日亡くなったわよ」
「トメさんも? 去年、町の盆踊りに来ていましたよね? お亡くなりになったんですか。全然知らなかった……!」
「だから大工は息子さんがあとを継ぐらしいわ。……だけどあそこの二代目は、腕はいいんだけど人見知りをする性格でね、営業がヘタだから、なかなか仕事が来ないらしいわよ」
「へえ……」
次から次へと出てくる情報に、吟子は相槌を打つばかりだ。
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