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そしてうなずきながら、トメさんの件は支店長に報告しておこう、と思った。神山銀行の中にトメさんの口座があれば、それは銀行として然るべき事務処理をして、口座を解約させないといけないからだ。こういった街の情報を集めるのも、渉外の仕事であった。
(トメさんの息子さんとは、そのうち会うことになるかもな……)
お茶をすすりながら、漠然と思案を進めていると、
「そうそう、そういえば吟子さん。話があるんだけど」
「はい、なんでしょう」
「今度ね、うちの商店街でCMの撮影があるのよ」
「……は?」
思わず、ぽかんとしてしまう。
「CMって、テレビのCMですか?」
「そうなのよ。【巽フーズファクトリー】って知ってる?」
「知っていますよ。全国的なお漬物のメーカーじゃないですか」
「そうなのよ。そこのお偉いさんが、先日、ふらっとこの近くを旅行で通ったらしいんだけど――そのとき、この商店街の雰囲気を気に入ったらしいわ。古臭いのが逆にいいらしくて」
「は、はあ」
「コンセプトは、なんて言ったかしら。――そう、『大切なものが、過去にある』。そんなキャッチコピーをもとにね、この商店街を使って、漬物のCMを撮影するんだって」
「へえ。……大瀬良食堂さんとか、確かに漬物のCMとマッチしそうですけど」
大瀬良食堂は、昭和ヒトケタの時代から商店街にある食堂だ。
おばあちゃんがひとりで頑張って切り盛りをしている。
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