1-② 吟子さん、CMデビュー!?

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 そしてうなずきながら、トメさんの件は支店長に報告しておこう、と思った。神山銀行の中にトメさんの口座があれば、それは銀行として然るべき事務処理をして、口座を解約させないといけないからだ。こういった街の情報を集めるのも、渉外の仕事であった。 (トメさんの息子さんとは、そのうち会うことになるかもな……)  お茶をすすりながら、漠然と思案を進めていると、 「そうそう、そういえば吟子さん。話があるんだけど」 「はい、なんでしょう」 「今度ね、うちの商店街でCMの撮影があるのよ」 「……は?」  思わず、ぽかんとしてしまう。 「CMって、テレビのCMですか?」 「そうなのよ。【巽フーズファクトリー】って知ってる?」 「知っていますよ。全国的なお漬物のメーカーじゃないですか」 「そうなのよ。そこのお偉いさんが、先日、ふらっとこの近くを旅行で通ったらしいんだけど――そのとき、この商店街の雰囲気を気に入ったらしいわ。古臭いのが逆にいいらしくて」 「は、はあ」 「コンセプトは、なんて言ったかしら。――そう、『大切なものが、過去にある』。そんなキャッチコピーをもとにね、この商店街を使って、漬物のCMを撮影するんだって」 「へえ。……大瀬良食堂さんとか、確かに漬物のCMとマッチしそうですけど」  大瀬良食堂は、昭和ヒトケタの時代から商店街にある食堂だ。  おばあちゃんがひとりで頑張って切り盛りをしている。     
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