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「吟子さん、まさにそこよ。大瀬良食堂の中で、白いごはんとお味噌汁、焼き魚が出される。そして最後に漬物が出てきて……みたいなCMにするらしいわ」
「へえー。……いいですね。いま昭和レトロってウケていますから」
吟子は、大瀬良食堂の外観を思い出した。
木造の、レトロすぎるにもほどがある外見は、いまとなっては逆に貴重だろう。
「私には、悪いけど古い食堂にしか見えないけれどねえ。若い人には逆に斬新なのかしら。……ま、とにかくそういう話よ」
「うーん、それで光瀬町商店街の知名度が少しでも上がったらいいですね。情報ありがとうございます。支店長にも伝えておきますね」
言いながら吟子は、テレビCMなんて、華々しい話だな、と思っていた。
自分もテレビに出演してみたい。モデルとして出てみたい。
(叶わぬ夢、なんだけどさ)
現実は、厳しいのだ。
――お茶を飲みほした。
ごちそうさまでした、と言いながら、湯飲みを机の上に置く。
「それじゃ、お預かりした現金は確かに通帳に入れて、明日、持ってきますので――」
「ちょっとちょっと吟子さん、話は最後まで聞きなさいよ」
「はい?」
花屋を出ようとした吟子に、店主がなおも話しかけてくる。
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