1-③ 夢は手軽に叶わない

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 だが――その雨漏り、放置していていいものか?  嫌な予感がした。もしかしたら、それで食堂が閉鎖とか取り壊しになって、CM出演の話が流れてしまうかもしれない。  巽フーズファクトリーが……。  お漬物のCMの話が……!  そう思うと、もうだめだった。  居ても立っても居られない。  大瀬良食堂の様子が見たい! 「あたし、もう一回商店街に行ってきます!」  吟子はスーパーカブの鍵と営業カバンを手に取ると、駐輪場へ向かった。  残された融資係は、呆けた顔をしていたが――  吟子と融資係の様子を見ていたトップスリーは、こちらもまた、それぞれぽかんと口を開けた。  吟子はカブにまたがり、商店街へと疾走していた。  そして到着するなり、大瀬良食堂に飛び込んだのだ。  昼下がりなので、食堂にはだれもいない。 「大瀬良さん、神山銀行の五十嵐吟子ですっ」  元気よく叫ぶと、白髪のおばあちゃんが奥から出てきた。  大瀬良食堂の店主、大瀬良さんだ。 「吟子さん。どうしたかね、そんなに慌てて」 「どうした、じゃないですよ。この食堂、雨漏りがしているって本当ですか?」 「あら、もう聞いたの。さすが吟子さんは耳が早いね。……本当だよ」  大瀬良さんが、少し声を沈ませて言った。     
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