1-③ 夢は手軽に叶わない

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「この間の雨が、いきなり漏れ出してきてね。店の中も壁紙もぐちょぐちょ。もう、大変だったよ」 「言われてみれば……。あちこちに濡れたあとがありますね」  吟子は、きょろきょろしながら言った。  店の床には拭いたあとがあるし、天井にもシミがついている。  特にひどいのは壁紙で、はっきりと水濡れのあとが残り、一部はシワにまでなっていた。 「今日は営業もしていないさ。いや、これからもできるかどうか……」 「じゃあ、例のCMの話も――」 「ああ、吟子さんがCMに出るって話になっていたね。でも、悪いけどそれもお断りしようかと思っとるんよ。こんな食堂じゃ、とても世間様にお見せするようなコマーシャルは作れん。逆に商店街の恥になるからね」 「そ、そんな……」  吟子は愕然とした。  せっかくの夢が、砕け散っていく。  そんな気がした。ガッキーならぬガッシーの夢が。  ――どうする、どうするのよ、吟子!?  心の中で、何度も叫ぶ吟子であった。
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