301人が本棚に入れています
本棚に追加
/277ページ
「この間の雨が、いきなり漏れ出してきてね。店の中も壁紙もぐちょぐちょ。もう、大変だったよ」
「言われてみれば……。あちこちに濡れたあとがありますね」
吟子は、きょろきょろしながら言った。
店の床には拭いたあとがあるし、天井にもシミがついている。
特にひどいのは壁紙で、はっきりと水濡れのあとが残り、一部はシワにまでなっていた。
「今日は営業もしていないさ。いや、これからもできるかどうか……」
「じゃあ、例のCMの話も――」
「ああ、吟子さんがCMに出るって話になっていたね。でも、悪いけどそれもお断りしようかと思っとるんよ。こんな食堂じゃ、とても世間様にお見せするようなコマーシャルは作れん。逆に商店街の恥になるからね」
「そ、そんな……」
吟子は愕然とした。
せっかくの夢が、砕け散っていく。
そんな気がした。ガッキーならぬガッシーの夢が。
――どうする、どうするのよ、吟子!?
心の中で、何度も叫ぶ吟子であった。
最初のコメントを投稿しよう!