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笑うしかないのだろう。
吟子は、押し黙ってから、大瀬良さんの様子を眺める。
それから食堂内を見回した。……古い。確かに古い食堂だ。柱など、真っ黒になっている。
吟子は思った。
この食堂は修理しなければならない。
このままでは、大瀬良さんの生活と仕事が成り立たなくなる。
それに――
(あたしのCMの話だって、流れちゃうかも)
巽フーズファクトリーは、大瀬良食堂を気に入って、この商店街を舞台としたCMを作りたいと言ったのだ。
その大瀬良食堂が使えないとなると、CMの話は別の場所に――
そう、例えば他のレトロな食堂にいってしまうかもしれない。
そうなると、吟子がCMに出演するという話は当然、なくなるだろう。
それは避けたい……。
と、思っていると、
「……はあ」
大瀬良さんは、深々とため息をついた。
「大瀬良さん、どうしました……?」
「いや……いよいよこの食堂も、もうおしまいかね、と思って」
「…………」
「戦前から続いた食堂でね、死んだ旦那が婿養子に来てくれて、それでなんとか続けてきた店なんだけどね。まあ終わるときは終わるなあ、と思うてねえ」
「……大瀬良さん」
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