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「まあ、ものにはいつか終わりが来る。そういうことですわいな。……ここまできたら、あとは雨が漏ろうが風が吹こうが、この家を最後までわたしが守っていく。それだけですわな」
大瀬良さんは、諦観のにおいを漂わせながら、そう言った。
吟子は思わず、目が熱くなった。
思い出がたくさんあるこの食堂……。
なるほど、 ものにはいつか終わりが来る。
しかし、しかしだ。
この終わり方は、あんまりじゃないか。
何年も、何十年もこの場所で。
一生懸命、食堂をやって。頑張ってきて。
その結果が、雨漏りだらけの家の中で、人生の終焉を迎えるだなんて!
そんな、そんな終わり方は――
(……おばあちゃん……!)
吟子は、食堂の雨漏りをなんとかしてやりたいと思った。
自分のCMのことなど、あとでいい。それよりも、このおばあちゃんを放っておけない。
「大瀬良さん、家を修理しましょう」
吟子は、その話題を切り出した。
「修理費用は、うちが都合するようにしてみせます」
「ありゃ。神山銀行さんが貸してくれる、ちゅうのかい」
「そうです」
「いや、吟子さん。でも、そりゃ無理じゃ。金を借りても、返すアテがない」
「CMでこの商店街が有名になったら、食堂も儲かるでしょう。それに、この食堂の土地は大瀬良さんのものですよね? この土地を担保にすれば――」
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