1-⑤ 逆転の一手!

1/10
前へ
/277ページ
次へ

1-⑤ 逆転の一手!

 吟子は、光瀬町二丁目にやってきた。  ここは数十年前に開発された元・新興住宅街の一角だ。  高度経済成長期に建てられた一戸建てが、ところ狭しと立ち並んでいるのだ。  もっとも、どの家屋も既にガタがきており、デザインも古臭く、住民もほとんどが高齢化していて、いまとなってはこちらも商店街同様、寂れた風が吹いているのだが。  そんな住宅街の中を、吟子はゆく。  目的地は、大きな和風の邸宅である。  門扉には、留沢という表札がかかっていた。 「こんにちは。先ほどお電話をさせていただいた、神山銀行の五十嵐ですが……」  インターホンを鳴らし、相手が出るなり、吟子は名乗った。  事前にアポはとっていた。【フラワーむらかみ】の村上さんから、電話番号を聞いて、電話をかけていたのだ。  果たして、吟子の求めるその人物はすんなりと家から出てきて、吟子を出迎えてくれた。  がっしりとした、しかし気の優しそうな顔をした、三十代後半の男性である。 「あ、どうも。……留沢です」  留沢邦夫。  彼は、『大工のトメさん』の二代目だ。  正確にいえば、留沢工務店の二代目で、大工というよりは建築関係全般の仕事を受け持つプロであった。     
/277ページ

最初のコメントを投稿しよう!

304人が本棚に入れています
本棚に追加