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「いま、大瀬良食堂さんでCMを撮影するというプランが進んでいます。食堂の雨漏りさえなおせば、CMは滞りなく撮られ、全国で放映されるでしょう。そうすれば、CMに出た食堂を修繕した工務店さんということで、良い実績のアピールになると思うのです」
「……ふうむ」
留沢は、少し悩んでいるそぶりを見せた。
というより、二の句をどう継ぐべきか、言葉に悩んでいるようだった。
留沢工務店の二代目は、腕はいいが人見知りだという情報は、嘘ではないようだ。
ややあって。
留沢は、分厚いくちびるを開いた。
「大瀬良食堂には食べにいったことがあります。あのおばあちゃんが困っているのなら、助けてあげたいのはやまやまです。五十嵐さんのおっしゃる通り、うちの工務店の宣伝にもなるでしょう」
「そ、それじゃお引き受け――」
「あ、いえ、ちょっと待ってください」
吟子が身を乗り出したのを見て、留沢は慌てて手を振った。
「それでも、あまりに安い費用では仕事を受けられません。材料代もかかりますから。大瀬良食堂のような古い木造建築は修繕も一苦労ですし」
「……別の業者さんの見積もりでは百五十万円だと、大瀬良さんは言っていました」
「…………」
「単刀直入にお尋ねしますが、留沢工務店さんならば――おいくらでお引き受けしてくださいますか?」
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