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「実際に食堂を、隅から隅まで見てみないと、なんとも言えないのですが、五十嵐さんの言うように、宣伝仕事だと割り切ったとしても、やはりその半分。七十五万円はいただきたいところです」
「七十五……!」
「これは破格ですよ」
留沢の言う通り、他業者の半額というのは確かに破格だろう。
だが、それでも。……七十五万円!
(支店長は言っていたわ。よほど甘く融資をしても、五十万円だって。ってことは、あと二十五万円足りない。二十五万円!)
吟子は、うつむいた。
なんということだろう。工務店は安く仕事を引き受ける。銀行も少しは金を貸す。
だがそれでも、そこまでやっても、あと一息、お金が足りないとは!
(支店長を説得しよう。それしかないわ……!)
あと一声なのだ。あと一声で、なんとかなるのだ。
なんとか二十五万円、融資額に上乗せしてもらおう。
(最後は根性よ! 頑張れ、吟子。おばあちゃんのために!!)
「だめだね」
支店長は、やはりあっさりとはねのけた。
根性では打ち破れない壁だった。
「言っただろう。うちが出せるのはせいぜい五十万円。それも相当優しく見て、だ。……いまの大瀬良さんでは、五十万円さえ危ういところなのに」
「ですが、そこをなんとか……」
「無理だよ。銀行のお金は預金者の皆様のお金だ。一円だって、『そこをなんとか』で貸し出すわけにはいかない」
「そ、それはごもっともなのですが……」
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