1-⑤ 逆転の一手!

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 吟子は目を伏せた。  参った。見通しが甘かった。  やはり支店長は伊達に出世していない。  あと二十五万円。  たった二十五万円、されど二十五万円だ。  その金が足りないばかりに、食堂の雨漏りは直せず、大瀬良さんは落胆し、吟子のCM出演の話も危うくなるのだ。 (いっそ、あたしが二十五万円を食堂に貸すか……?)  それくらいの蓄えなら、ある。  毎月、少ない給料の中から積み立てをしているし、財形貯蓄もしている。財形貯蓄は銀行も推奨していて、千円ごとに三十円の補助がつく。すなわち、神山銀行の行員は、月に一万円、財形で貯蓄をすれば、三百円、余分に貯蓄できるということだ。銀行の福利厚生の手厚いところだ。 (だけど、銀行員が取引先に個人的にお金を貸し出すなんて、許されないよね。いや、でも……)  心の中で逡巡する。考えてしまう。  だが、そのときだ。秋山支店長が口を開いた。 「五十嵐さん。もう少しだけ視野を広げなさい」 「え」 「日誌だけじゃない。日ごろ、上司や先輩がどんな仕事をしているか」 (……どんな、って)  吟子は、支店長の日々の行動を思い出す。     
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