304人が本棚に入れています
本棚に追加
支店長は、支店にいないことも多い。取引先と交渉に出かけたり、本店に出向いたり、ときには取引先の社長とゴルフに出かけたりもしている。
だが支店にいるときは――もちろん、いろんな仕事をしているが、支店長が毎日欠かさずしていることといえば――
(地方新聞を読んでいるよね)
ネットではなく、紙の地方新聞を、支店長は毎日欠かさず、隅から隅まで読んでいる。
もしかしてあれも、なにかしらの理由があって……?
吟子は、支店の裏へと急いだ。
そして古新聞の山を見つけると、漁り始めたのだ。
……それから十五分後。
「見つけました、支店長」
吟子は支店長に、ドヤ顔と古新聞を見せつけた。
「支店長があたしに教えたかったのは、これのことだったんですね」
神山市住環境助成事業金。
その十一文字が、新聞の片隅で輝いていた。
光瀬町は神山市という市に所属しているが、この事業は、その神山市に在住している人を対象として行われる事業だ。
すなわち。
神山市に住んでおり。
一定以下の所得しかなく。
しかし税金の滞納はない。
そういう人が、住環境をよくするために家の修繕や改築を行う場合、一定の助成金を市が支払いますよ、という事業なのだ。
ただし、その修繕や改築を行う業者は、神山市の業者に限るのだが。
……要するに、これも一種の公共事業である。
最初のコメントを投稿しよう!