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「ま、とにかくこれで、なんとかなりそうだな。もっとも、四十五万円の融資を大瀬良食堂さんが返済できるか、いまでも僕は疑問なんだが」
「それはなんとかなると思います」
「ほう。どうしてそう思う?」
「実は……」
吟子は、ここにきてようやく、支店長にCMのことを話した。
食堂を修繕すれば、CMの話は滞りなく進み、その結果、食堂の客がいくらかは増えると思われること。
そうすれば、融資分は回収できると思われること。
話を聞いた支店長は、高らかに笑った。
「それなら、四十五万円くらいは回収できそうだな!」
「はいっ!」
吟子はうなずいた。
うなずきつつ――
(これで、これであたしもいよいよCMデビューだ! ひゃっほう!!)
心の中で、熱いガッツポーズをとったものである。
それから、しばらく経って。
大瀬良食堂にて、いよいよCMの撮影が開始されたのだが――
「美味しい! このおつけもの!」
たどたどしい声で、セリフを口にしている女の子がいる。
ショートカットの、素朴な顔をした、可愛らしい女性だ。
岡部加奈であった。
吟子の、高校時代の友人である。
(……どうしてこうなった)
吟子は、そのCMの撮影現場にいる。
そして、不服顔でその景色を見つめているのだ。
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