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「他にまともな就職先がなかったから、銀行に入ったのよ。本当は都会に行きたかったけど、母さんに反対されたから、田舎で就職しようってなって。……だけど田舎で優良な就職先なんて、公務員か金融機関くらいしかないじゃない。あとは待遇なり安定性なり、どこかがブラックな企業ばっかりだし」
『……まあね。あたしなんか、なかなか就職が決まらないから介護の仕事を始めたけど、いまは、やめとけばよかったかなって思ってる』
加奈はため息混じりに言った。
高校を卒業した彼女は、最初、地元の小さな会社に事務職として務めたが、その後、会社が破産。それからしばらくはフリーターをやっていたが、最近になって町に新しくできた老人ホームに就職した。もっともその老人ホームはそうとうブラックな待遇らしい。吟子はよく、愚痴を聞かされる。
『いまからでも公務員、目指すべきかなあ。吟子ちゃんも一緒に公務員試験受けない?』
「あたしはいいや。役人はなんだか性に合わないわ。だから銀行に入ったんだけどさ――」
『後悔しているんだね、銀行に入ったこと』
「まあね~。銀行が、こんなに飲み会のノリが汚いとは思わなかったわ。仕事だってアナログもいいところ。いまどきネットとかメールもろくに使わなくて、ファックスとかでやりとりするし、紙の書類至上主義だし」
吟子はため息をつきながら言った。
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