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『わたしは面白いと思うけどね。――じゃ、とにかく今夜七時にペンペン草ね。予約はしなくていいかな?』
「予約するほど混んでる居酒屋じゃないでしょ」
『そっか。そうだね。それにふたりだしね』
「……そっか、ふたりか。せっかく久しぶりに飲むのにふたりは寂しいね。だれか呼ぶ? ユウちゃんとかヒマかな?」
何気なく、高校時代の友達の名前を出す。
すると、加奈が小さく『あれっ』とつぶやいた。
『吟子ちゃん、知らなかったの? ユウちゃん、もうこの街にいないよ。先月、東京にいっちゃった』
「え! マジ?」
『うん、本当だよ。美容師になるって夢を叶えるために、単身上京。……ちょっと焦ってたもんね。わたしたちも、もう二十四歳だから。夢を叶えたいなら本当に動かなきゃマズい時期だから』
「……そっか。ユウちゃん、東京にいっちゃったんだ」
吟子は、呆けたみたいに言った。
『地元から人がいなくなるって、寂しいね』
「……だね」
『ま、そのへんもネタにしてふたり女子会やろうよ。ねっ』
「そうだね」
吟子は、力のない笑みを浮かべながら、独りごちるようにして言葉を紡いだ。
『じゃ、とにかくそういうことで。また夜にね』
「うん。……じゃあ、またあとで」
『うん、またあとでー』
電話が切れた。
「……ふう」
吟子は、何度かかぶりを振った。
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