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第1章
嘘吐きは言った。
自分は幸せなのだと、
嘘吐きは言った。
舌がくっつきそうなほど舐め回した飴の甘味が、口の中を蹂躙する。
そんな甘味を吐き散らすように、嘘吐きは取引を続けた。
「ここから先は、追加料金ですけど……お財布の中を確認されてはどうですか?」
「何!?そんなことは最初に言っていなかっただろう!!」
不健康そうな丸みのあるフォルムをした初老の男性が、両腕でテーブルを叩きながら立ち上がった。穏やかなクラシック曲の流れる店内に響き渡る怒号を交えながら。
「いいえ、私はあくまで、『流通ルート』の情報を売ると言っただけですよ?だから勿論、これ以上の情報は追加料金としても問題ないでしょう」
「やってられん!!もういい!!」
初老の男は財布の中から数枚の紙幣を取り出し、店を出て行った。
妙な形で取引を終えた黒髪碧眼の嘘吐きは、ご満悦の表情で机に置かれた紙幣を手に取った。
「よし、金額は確かだな。激昂してた割には律儀な奴だ」
ご満悦の表情で、とは言っても、その表情は他者から見ると卑屈な笑みにしか見えない代物だった。
「流通ルートって、なんです?」
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