ふらり、北の地へ

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ふらり、北の地へ

 まだ肌寒い季節だったのですが、すっかり疲れてしまった私は……、今思えば、道祖神に招かれたというのでしょうか、あてもなく夜行列車に乗って、北へと旅に出ることにしました。  朝から旅の準備を始め、最寄り駅から電車を乗り継いで、昼過ぎには上野駅に到着しました。ところが、駅にある時刻表を見ても、夜行列車らしきものは見つかりません。  どうしてなのかなと、初老の駅員さんに聞いてみると、 「北海道方面に向かう定期の夜行列車は、もう全部廃止になってしまったんだ。今は臨時に観光列車が走るだけだよ……」 と、寂しそうに教えてくれました。  いきなり出鼻をくじかれて、さらに気分が滅入ってしまいました。  それを見かねたのか、駅員さんは今からでも函館までなら新幹線でいけると教えてくれました。  私は早速切符を買って、新函館北斗行きの新幹線に乗り込みました。  車内は空いていて、窓際の席に座ることが出来たので、車窓を流れる景色を見ることにしました。東京を離れ、最初は見慣れたビル群と、家並みが見えました。  大宮に少し止まると一気に加速。あっという間に家もまばらになり、東北に向かっている実感が……、あまり湧きませんでした。ただひたすら、流れる景色に身を任せている感じです。  仙台、盛岡と止まるたびに乗客は少なくなり、さらに寂しさが増してきました。トンネルが増え、景色が見にくくなると、窓の外に見える自分自身と向き合うことが増えてきました。もし、自分自身から逃げられるなら、どんなに良いかとぼんやり考えていました。東北の山の中の景色が、その気持ちに追い討ちをかけるようです。  新青森を過ぎて青函トンネルを過ぎ、東京から4時間ほどで函館に着いた頃にはあたりは既に暗くなっていました。
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