170人が本棚に入れています
本棚に追加
時おりトンネルに挟まれながら、流れてゆく車窓にしばし身を委ねました。街灯も少なく暗い風景に、心の暗さはだんだんと限界に近づき、涙が出そうになっていました。
そんな気持ちを見越した見えない悪魔が、私の心の扉を叩きました。
「いっそ、死のうかな……」
死ねば、悲しむことも裏切られることもない。そんなことを考えていると、トンネルの間に小さな駅らしき灯りを見つけました。
一瞬の出来事でしたが、都会の駅と違って、周りには何も無さそうなのがわかりました。北海道には誰も利用しなくなった駅が残っているそうで、その一つでしょうか。
「あそこなら、誰にも気付かれずに死ねるのかな」
衝動的、とでも言うのでしょうか。私は、その駅らしきところに行ってみることにしました。
次の洞爺駅で特急を降りて、初老の駅員さんにその駅のことを尋ねてみると、すぐに教えてくれました。
「ああ、鳥幌駅のことかい。それなら30分待ちになるけど、19時38分発の長万部行きに乗れば行けるよ。
けど、あっこ(あそこ)は、釣りに行く人ぐらいしか降りないよ。それ以外なんもないし、止まる列車も少ないから、行くんだら気をつけてね」
何も無い駅。死ぬにはちょうど良さそうに思えました。
待ち時間の間に、駅の近くの東京でも見るコンビニに行っておにぎりなんかを買って、駅に戻ってぱくついてから、駅員さんに言われた列車に乗り込みました。
都会の電車と違って、待ち時間が長かったこともあって、まるで異世界にでも向かっているような気分です。
ワンマンバスのような、無機質なアナウンスを聞きながら、さっき来た道を戻ります。地元の人がちらほらいるぐらいの列車に揺られて30分弱ほどで、その駅に着きました。
前のドアから降りると、運転士さんが怪訝な顔を見せたのを覚えています。
最初のコメントを投稿しよう!