何もない駅とおじさん

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何もない駅とおじさん

 鳥幌駅に降り立って、改めて見ると、トンネルに挟まれた駅と、小さな待合室があるだけでした。海が近いのか、潮騒の音が聞こえてきます。  とても寒く、まるで死神が迎えに来たような感じさえします。  本当に誰もいないように見えたので、とりあえず待合室で暖を取ろうと思いました。  ところが、そこに入ると、サバイバル生活でもしているかのような、やせ細った中年の男性がいました。 「ひいっ!」  私は思わずのけぞってしまいました。 「あんた、なんでこんなとこさ来たんだ?」  おじさんは、飾り気の無い無愛想な感じで、私に話しかけて来ました。  死ぬために来たということも出来ないので、 「いえ、電車から窓の外を見てたら、ここの風景がちょっと気になったもので……」  と、当たり障りなく返しました。 「そうかい、だけども、ここにはなんもないべ」 「何も無いところだから、気になって」 「ふーん、そしたら釣りに来たのかい?」 「いえ、違います」 「んじゃあ、鉄道が好きなんかい?」 「え? まあ、そんなとこです」  ちょっとしどろもどろになって答えると、おじさんは少し考えて、思いがけない一言を私にぶつけました。
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