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「来人、スマホ繋がらないんだけど…」
『そうでした。このBARは「異空間」と呼ばれる場所。
ここでの時間は凛音が普段過ごしている場所と違うのですよ。
だから、ここを出たらまだ凛音が入ってきた時間になります。
確か…22時を回っていたと思いますから、終電は大丈夫そうですね。
でもLadyを遅くまで引き留める訳にはいきません』
「Ladyって…そんな事言われたらびっくりするよ。
でも今日は楽しかった。美味しいCocktailにも出逢えたし。
来人にも逢えた。本当にありがとう」
『いえいえ、こちらも久しぶりに愉しい時間を過ごせました。
ありがとうございます』
頭を下げる来人に戸惑いながらあたしは財布を取り出す。
「来人、Cocktailの料金はいくらになりますか?」
『料金?それは結構です。貴女の色を見せていただきましたから。』
「え?それって「見つかった色彩」が料金って事?」
『そう言う事になりますね。特に凛音の「色彩」は特殊でした。
逆にこちらがお金を払いたい程です。だから、凛音にはこのお店の鍵を渡しました。
「選ばれた人」の証としての対価に等しいのです。
鍵に名前も彫ってあるでしょ?それは「私の友人」の証です』
この鍵、簡単には持てないのか。改めて驚く。
ますます無くせない。普段から身に着けておかないと…
『私から友人に送った御護りだと思って下さい、凛音…
私にはここではバーテンダーとしてCocktailを提供できますが、
ここを離れたら何も出来ないのです。
なので、御護り代わりに持っていて下さい。
そして凛音がまた何かに困ったり、私に逢いたくなった時は、
その鍵を握りしめて、逢いに来てください』
「わかりました。大切にします。ありがとう、来人…」
『礼には及びませんよ、凛音。
今日はもう遅いです。また何時でもいらしてください。
私は待ってますよ』
「本当にありがとう、来人。また来ます!」
『はい、何時でもお待ちしてますよ、凛音…ご来店、ありがとうごさいました』
リュックを背負い、サックスを持って店を出ると、外は歌舞伎町のゴールデン街だった。
振り返っても『Pousse-Cafe』は見当たらない。
「また逢えるよね、来人…」
そう言ってあたしは銀の鍵をやさしく撫でた。
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