路地裏に現れた「BAR」

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B♭メジャーならリコーダーの様に抑える指は簡単だからすぐに吹ける様になった。 でも、急に♯や♭が入るとまだ運指が付いて行かないから出来なくて… 結局今日は無様な姿を見せる事になってしまった。 「これからどうしよう…」 座り込んで考える。 音楽から完全に手を引くか、それとも続けるか… 迷いながらスマホを見つめる。 電話帳の画面に叔父貴の電話番号があった。 それを見て、躊躇う事もなく叔父貴に電話をした。 「もしもし、あたし」 『おう、元気か?』 「元気だよ。って言うかそっち雪すごいらしいね…」 『まあな。そうじゃないと函館じゃないだろうよ』 叔父貴は函館に住んでいる。 10年以上も前に亡くなった祖母の家に住んでいるのだ。 「そうだけどさ…相変わらず仏壇にお水供えないのね。 お酒は供えた形跡があるみたいだけど…」 『酒はな。水は凍るからだめだ』 「だからご飯も供えないと…」 『俺、ご飯炊かねぇもん。リンゴとかバナナはあげてるぞ?』 「後で自分が食べるんでしょ、どうせ…」 『おうよ。分かってるじゃんか。さすがだねぇ…』 電話で仏壇の供え物を注意をしているが、あたしは昔から話をしていると 相手の部屋の中とかが、何となく視えてしまう。 本来ならそんな事は出来ないはずなのに、あたしにはなぜか視えるのだ。 仏壇の注意をしながら、叔父貴との他愛もない会話が続く。 この会話が、あたしにとっては落ち着くのだ。 叔父貴は甥や姪を「弟や妹のようなもの」という感覚で接してくれる。 だから、あたしも叔父貴の事はあだ名で呼び、タメ口で話す。 『で、何かあったんだろ?こんな時間に電話してくるって事は…』 「うん。実はね…オーディション落ちたわ」 『そっか…ってまだやってるのか?いい加減諦めたらどうだよ』 「諦められないのがあたしの特徴だからね」 『今日は何のオーディション?』 「ソプラノサックス。最近やっと音が出る様になったんだ」 『お前がサックス?出来るのか?』 「できるよ…中学の時にブラスバンドに入れって散々言われたもの。 仮入部で1発でマウスピース鳴らしたんだもん。 まあ、曲が簡単すぎる曲だったし、音程が出来るようになって2ヶ月だからねぇ…」 『いや、それでオーディションはあまりにも急だな…』
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