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追憶に耽ようとするも、何かとてつもなく怖い目にあった事は確かであるが、その内容が思い出せない。悲鳴を上げるほどだ。相当怖かったのだろうとは理解できたが同時に、
――情けない悲鳴を全員に聞かれたわけか……
さらに気が落ちてしまった。
奇異の視線が刺さって痛い中、そっと視線を正面の黒板の右斜め上に設置された時計を見やる。
授業が終わるまであと十分もない。
――終わったと同時に個室に逃げても、余計に悪目立ちするだろうな……ちくしょう。どうせならまだ何十分も時間があれば、みんな熱が冷めるだろうに……
悪態を押し隠し、後悔だけは目と眉に表しながら、せっせと板書をノートに書き写す作業を始める。
だいぶ遅れているどころか、途中部分が既に消されているため、余分にぺースを開けてから書き写し始める。どうにか後できちんと本日の授業内容を全部書き写したノート調達してなければ、提出時にまた何か余計な課題をやらされるに違いないと気分が重くなる。
正直、板書を写しただけのノートに一体何の意味があるのだろうか甚だ疑問であるのだが、そうは言っても大人が素直に聞き入れてくれるはずない、と諦めながら書き写し続ける。
授業の終わりを告げる録音されたチャイムの音が鳴り始める前に終えるだろうか。
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