01 淡い現実

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 冬の北海道では、どんなに運転に慣れた人間でも自動車によっての事故が起きてしまう。  一見するとただ濡れている道路でも、薄い氷の膜にハンドルを取られる事故もある。  視界の悪い大雪の夜なら尚更であろう。  闇夜の(とばり)が下りた冬空を、覆いつくす勢いで降り注ぐ白雪――その情景を彼は今でも鮮明に覚えている。  忘れられるはずがなかった。  確かに心と身体の熱が奪われていくのに、雪の冷たさすら何もかも感じない事故のあの日。  ただ、胸の内から出でる痛みだけが未だに消えずに残っていた。    少女が横になっているベッドのすぐ傍に置いてあるテレビは、廊下の自動販売機で売っているカードを買わなければ見ることができない仕様だ。でも目を覚まさない少女には必要ないものだろう。テレビの画面を遮ってしまうが少年は以前に買ってやった本が何冊か入っている紙袋をそこへ移した。新しい本は少女の手元に置き、古いのは移動させる。  すでに他の置き場にも本が占領済みだ。  今まで買ってきた本を床に置いたら、きっとその白いベッドを抜き天井に到達する高さになるだろうなと悲し気な顔で少年は自嘲(じちょう)する。  薄緑のカーテンの間から見える、窓の先から差し込む陽光が眩しくて目に染みる。     
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