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本格的な冬の始まりである十二月の下旬で起きた事故のあの日から季節は変わり、うだるような暑さが空から降り注いでいる。外気が下がる夜には、吸収した熱がアスファルトから放出されて寝苦しい熱帯夜となりつつある七月となっていた。
病院全体が空調で程よい温度であったが、いざ外へ一歩踏み出すと、戻りたくなる衝動に駆られる暑さで辟易してしまう。
数瞬の間、止まった足を進め外へ歩いて行く。強い日差しから逃げるようにすぐに走り出すが駐車場一帯に日陰と呼べる場所はない。少年は脇を走り、日陰にある駐輪場へと向かう。
「……あっちぃぃ~~」
たった数十秒移動しただけで止めどなく汗が噴き出してくる。自転車の鍵を取り出し鍵穴へと差し込む。ガシャンと音を立てロックが解除された。
そんな音が不自然に感じない程、周りはそれ以上に騒音が響いていた。蝉の大合唱と道路工事の音だ。夏の風物詩とコラボレーション。
リズムを合わせれば名曲に――。
「――ないな。ないない」
暑さで変な考えが生まれてしまいそうだ、と独りごちりながら自転車に乗って帰路へと駆け出した。
世間は夏休みといっても、彼――立花颯汰には、年上の先輩から同輩になってしまった朱堂美雪への見舞いと喫茶店の店員のアルバイト以外にこれといった予定はない。
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