01 淡い現実

5/11

219人が本棚に入れています
本棚に追加
/1141ページ
 颯汰に面と向かって聞けば必ず否定するが“彼女のために”不定期ではあるが、自主的に本を買って病室に置いている。気に入りそうなものをリサーチし、購入していつ起きても良いようにと。文学・小説、実用書、医学・薬学書、イラスト集、科学雑誌、漫画などなど……様々なジャンルを朱堂美雪は読むものだから颯汰もアルバイト代やお年玉を崩し、直感で選んでは買っている。誰に頼まれるまでもなく、勝手に買っているのだ。  花の持ち込みは院内で禁止にされている。何より寝ている朱堂美雪が世話なんてできるはずがない事に買った後に気づいて自室のベランダから日が当たる場所に飾っている。店員に勧められたまま買ったトルコギキョウは鮮やかで淡い色で今も咲いている。  朱堂美雪は昔から無類の本好きであった。颯汰はそんな彼女から読書は強制された事は無いため、本が好きでも嫌いでもない。自主的にはたまに読む程度で、もっぱらテレビゲームに勤しんでいる事の方が多いと言っていいだろう。  そんな立花颯汰はどこにでもいる平凡な高校二年生であるが、友達はそう多くない。  別にこれといって不和が生じた訳でもなく、クラスに馴染めていないわけではない。話し掛けられれば普通に話すし、無駄に攻撃的な態度や孤独アピールをするようなことはしていない。むしろ目立つ杭は幾つもの槌で壊れるまで叩かれるという事を知っているため、彼は出来るだけ『目立たず、浮かずに、されど沈まず』を心がけて生きていた。  どんな時も周りに流されず、かと言って迎合(げいごう)を大げさに避けずにいる。言わば彼は常に他人の目を気にする“傍観者”であった。     
/1141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

219人が本棚に入れています
本棚に追加