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高校卒業後、私と桜は違う進路を選んだ。私は写真の専門学校で、桜はデザインの専門学校だ。違う進路といえども、お互い課題の都合で頼り合うことはあった。私は被写体が欲しかったし、桜は作品をカメラに収める人が欲しかったのだ。
違うことをやってても、案外縁は切れないねなんて、ふたりで笑って話したっけ。
そんなある日のこと、私が通いだした創作人形教室。そこで作った人形に着せる服のことで、桜に話した事があった。それは、単純だけれども、型から作る靴の作り方。人形用の簡単な物だったけれど、その話を聞いた時、桜は今までに無いくらい瞳を輝かせていた。 靴の話をして、その次に喫茶店で会った時、私は驚いた。桜が人形に履かせられる大きさの靴を、いくつも持ってきて私に見せたのだ。
見た感じ、手作りなのだろうなと言うのがひと目でわかる物もあったけれど、物によっては既製品ではないかと思うような、精巧な作りだった。
「えっ、桜これ、全部作ったの?」
「作ったのだぜ。
このフェルトで出来てるのが最初に作ったやつで、あとは感覚覚えながら合皮とかハトメとかそんなの使いつつ」
まさか、私から話を聞いただけでここまで作れるようになるとは思わなかった。あまりの驚きに言葉の出ない私に、桜はにこりと笑ってこう言う。
「それで、靴の作り方を教えて貰ったお礼がしたいんだけど、なにか要望は有る?」
「要望……?」
一瞬桜の言って言う言葉が飲み込めなかったけれど、丁度運ばれてきたアイスティーをひとくち飲んで、改めて言葉を噛み砕く。
ふと、出来上がって服は何とかなったけれど、靴を未だに履いていない自作の人形のことが浮かんだ。
「それじゃあ、私の人形に履かせる靴を作って欲しいな」
「かしこまりっ!」
靴を作るには足型を取らなくてはならないのだけれど、人形を貸せば自力で足型も取るという。
それを聞いて、なんとなく、なんとなくだけれども、桜の人生の岐路を見ている気がした。ここで桜に人形の靴を作らせることで、彼女の今後の人生が大きく変わるのでは無いか。そんな気がした。
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