Ms.ShoesHolic

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 桜に人形を渡してから暫く。誂えた靴と一緒に人形は帰ってきた。上半身はぴったりとしていて、薔薇の花のように膨らんだミニスカート。それに合わせるように太ももまで脚を包んでいる編み上げのロングブーツ。桜が作ったのはこのロングブーツだ。  足首より上は編み上げだからフィットしているのは当然なのだろうけれども、足首より下の部分も、人形の足にきつすぎず、緩すぎずの丁度良いサイズで出来ていて、彼女は靴の作り方を聞いてから僅か数ヶ月で、ここまで技術を身につけたのかと、もはや感嘆するしかない。  デザインも、脚前面の編み上げ部分の開きを広めに取り、そこから薄く色を付けたレースを覗かせ、太もも周りにも幅広めのレースをあしらい、華やかな物になっている。人形の脚だというのに、いや、人形の脚だからかも知れない、妖艶で淫靡だった。  桜から人形を受け取り家に帰って真っ先にやったことは、部屋着に着替えることでもなく、メイクを落とすことでもなく、桜が作った靴を履いた人形の写真を撮ることだった。  いつもなら部屋の中に設置している撮影ブースを整えてから写真を撮るのだけれど、整えるだけの心の余裕を取れなかった。ただひたすらに、今すぐに人形の脚を写真に収めなくてはいけないと思ったのだ。  撮影ブースに置かれた倚子に人形を座らせ、一眼レフを手に取る。生憎フィルムを切らしていたので、もどかしく思いながらフィルムをセットした。  ストロボを焚き、角度を変えながら何枚も人形の写真を撮る。写真を撮るのは好きだ。けれども、この時なぜここまで夢中になって写真を撮っていたのか、撮らなくてはいけないと思ったのか、その理由はわからない。ただただファインダー越しに靴を履いた人形の脚を見つめ、シャッターを切るのはあまりにも倒錯的で、甘美な時間だった。
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