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私たちが専門学校を卒業して、私がカメラマンの仕事をするようになった頃。桜は念願の靴メーカーのデザイナーとして働くようになった。
お互い、学校卒業後下積み期間はあったけれど、夢に追いついて夢でお腹を膨らませられるように頑張ろうと、決意を新たにした。
昔から靴が好きだった桜。靴メーカーのデザイナーになって、それで満足なのだと思っていたら、ある時こんな事を聞かされた。
「靴のインディーズブランド始めた!」
それを聞いて驚いた。同時に納得もした。
桜は、あくまでも自分の理想を形にしたいのだと、私はその時理解した。
そんなに大きな志を持った桜が、企業のデザイナーとう倚子だけで満足出来るはずがない。
今まで知らず知らずのうちに桜を見くびっていた自分が恥ずかしくなる。そんな私に、桜は自分が作った靴の写真を撮って欲しいと依頼をしてきた。
私は二つ返事で請け負った。桜に、写真の報酬はどうするかと訊かれ、それもまたすぐさまにこう答えた。
「私の人形の靴を作って」
高すぎる報酬だろうか。そう思ったけれども、桜はにこりと笑って、その条件でいいと返してくれた。
桜が作った人間用の靴を、撮影の時に初めて見た。最初の撮影の時に見せられた靴は、四足のパンプスだった。
赤いエナメルに紫色のレースを被せ、履き口に小粒のパールビーズがあしらわれた物、ベージュのサテン地に黒のリボンが張り巡らされ、足首のストラップに黒い薔薇が添えられた物、白地に緑のレースが貼られ、履き口の部分に白いレースが足の甲を覆うように配された物、黒いエナメルに白いリボンでレースアップされ足首で大きなリボンを結ぶ物。
それらを桜が履いて、写真を撮る。繊細なデザインのパンプスは、濃い色のストッキングを履いた桜の脚を、艶めかしく見せた。
私は夢中で写真を撮った。桜が作った蠱惑的な靴の魅力をより明確に、適切に伝えられるように、照明や小物に気を遣い、何枚も、何枚も写真を撮った。そう、今使っているカメラはデジタルカメラだけれども、もしフィルムカメラであったなら、フィルムが何本あっても足りないと言うほどに、執拗に写真を撮った。
そうしてふと思い出す。桜に初めて人形用に作って貰った、あの靴を写真を収めていた時のことを。
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