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桜に何度、靴の撮影を頼まれた頃だろうか。桜は自分のブランドを軌道に乗せ、独立した。インディーズブランドとしてやっていくだけでも大変だろうのに、まさか独立までしてしまうとはさすがに驚いた。
けれども、これで桜は自分が作りたい理想の靴を、望んでくれている人の元へ届ける準備が出来たのだなと、話を聞いた時に思わずに涙ぐんでしまった。
そして、先に進んだのは桜だけではなかった。私も、自作の創作人形を売りに出して、ぼちぼち買い手が付くようになってきたのだ。
売りに出す人形が履いているのは、いつも桜が作った靴だ。人形のイメージに合わせて、魅力を引き立ててくれる桜の靴以外に、もはやどんな靴も選べないと思うようになっていた。
私が作る人形は、いつも微妙にサイズが違う。けれども毎回桜は足型を取って、きちんと合うように作ってくれる。こんなに良い物を作って貰っているのに、私が渡す報酬が写真だけでいいのだろうかと、たまに不安になる。桜は今でも、商品説明に使う物以外で撮った、私の写真が報酬でいいと言ってくれている。
「プロが自分のためだけに写真を撮ってくれるなんて、すごい贅沢じゃない?」
桜はそう言って、私が撮った靴の写真を見て笑う。桜が納得しているなら、それでいいと思うことにした。
「それにね」
桜が私に言う。私の人形の靴を作っていたおかげで、世の中に沢山いる色々な人の足型について考えることが出来るようになったと。だから、足の幅が広い人と狭い人、甲が高い人と低い人、足その物が大きい人と小さい人、それぞれに合わせた靴を作ることを面倒だと思わなくなった。これは私のおかげなのだと桜は真面目な顔をした。
「ヒールもね、同じデザインでも足の大きさが違うと同じ高さのかかとにしちゃうとバランスが変わっちゃうんだよね」
「なるほどなー」
「学生の時、三角比なんてなんに使うんだって思ったけど今めちゃくちゃ使ってる」
「三角比でヒールの高さ計算してるんだ」
靴の話をしている時の桜は楽しそうで、本当に好きなのだなと、聞いているだけでわかる。
桜の作る靴は魅力的だ。それを最初に知ったのは、桜本人で無いとするのなら間違いなく私だ。その事実は、間違いなく私の人生の、輝ける一ページだろう。
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