ちりとり

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ちりとり

 部活が終わり、着替えのために部室に戻ろうとしたら、その途中にちりとりが落ちているのを見つけた。  教室にも部室にも備えつけられている品だが、体育館から部室までの道のりに掃除道具は置かれていなかった筈だ。  誰かが使ったまましまい忘れた品だろうか。だとしても、元々どこにあったのかが判らない以上、元に戻すことはできない。  とりあえず道の真ん中に放置しておくのは気が引けるので、端の方に避けておこう。  そう思いちりとりの方へ足を向けた瞬間、突如ちりとりが動き始めた。  何か、リモコンのような物が取りつけられていて、動く用になっている。  瞬間的にそう思った俺に向かって、ぴょんぴょんと跳ねるようにちりとりが近づいてくる、その動き自体は若干滑稽だが、迫ってきたちりとりにどうしようもない恐怖を感じ、俺は足元に迫りつつあったちりとりを後ろに下がる形で避けた。  さっきまで俺が立っていた場所の土が大きく抉れ、空のちりとりの中に入ると同時に消滅した。それだけで、俺はちりとりが迫ってくる意図を理解した。  全力でその場から駆け出そうとしたが、何故かその場から遠くへ行くことができず、俺は狭い範囲内を、ひたすらちりとりを避けながらうろつきまくった。  そんな追いかけっこがどれほど続いただろうか。  ふいにちりとりが動きを止め、一度では飛びつけない距離を保ったまま、俺は向うの次の出方を待った。  げーーーーーっぷ。  何とも間の抜けた、けれど薄気味の悪い音が周囲に響き、それきりちりとりは動かなくなった。それと同時に逃げ回っていた範囲の外へ出られるようになり、俺は慌ててその場から逃げ去った。  そして翌日。  登校した俺は、体育館と運動部部室の間の地面がやたらと掘り返されている、という謎の事件の話を耳にした。  その現象が起きた時、まさにその場に俺はいたよ。そして、土が抉られて…ちりとりに食われていく様を目にしたよ。あと、その時は気づかなかったけれど、土を食いまくった奴のげっぷも聞いた。  でも、そんな話をしても誰も信じないだろうし、お前のイタズラかと怒られそうだから、決して人に話すつもりはない。  ただ俺は、あちこちでささやかれている噂を聞きながら、あのちりちりが土で満腹になってくれてよかったと思うばかりだ。 ちりとり…完
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