観察日記

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ユリカに断られると、私は、無性にあのマンガがまた読みたくなって、日をあらためて一緒に行けば良いものを、我慢できずに、その日、ひとりであの空き家へ向かったのだ。  その秘密基地と称して、私たちが侵入していた空き家は、まるでついこの間まで誰かが生活していたかのように、家具も食器もそのままにして、家から人の気配だけが消えてしまったかのような家だった。ただし、築年数はかなり経っているようで、今時には珍しい土間のある家で、家具にはすべて経年の埃が積もっていた。それを私たちが手を入れ掃除をして、快適な自分達の秘密基地として拝借していたのだ。  私はたてつけの悪い引き戸を慣れた様子で少しひょいと持ち上げると、ガラガラと音をたてて引き戸をあけた。土間で靴を脱いで、上がってすぐの日本間には、不似合いな洋式のカーペットとソファーが鎮座しており、そこに私が読み捨てていたマンガ雑誌をすぐに見つけた。他にも、この空き家に入ってきている小学生は居るはずだが、どうやら先週買ったばかりの少女マンガは無事のようだった。 「よかった。誰にも持って行かれなくて。」 たいして大きくない小さな家の裏には、一応土蔵があり、そこは母屋よりもっとたてつけが悪い、ブリキの引き戸が閉めてあり、小学生の力ではビクともしなかったので、私たちは無視していたのだ。     
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