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第1章 4-雨に消えて
[視点:仙崎千尋]
……やっと、松澤と話せた。
公園で別れてからの帰り道、俺は松澤のことで頭がいっぱいだった。
今日見た松澤の表情、言葉、仕草……。そのひとつひとつがすごく貴重で、胸の奥では今にも叫びだしたいほど嬉しい。
そして同時に、胸が苦しくてどうしようもなかった。
『――――俺は、どこに居ようと生きてる心地がしないんだ』
松澤……、
俺も、いつもそう思いながら生きてるよ。
そう素直に言えればよかった。その言葉を聞いたとき、自分の中にあった『灰色』の理由もわかったから。
けれど臆病な俺は本当の自分をすべて松澤に見せることが怖くて、できなかった。
いつかは、できるかな。
「つーか……『いつか』って、いつのことだよ……」
松澤はもうすぐで居なくなるんだって。わかってんだろ、俺……。
その事実を思い出した途端にやるせない気持ちが募って、俺は道端に捨てられた空き缶を蹴りあげた。
*
そんな色んな気持ちが入り混じって気持ちが沈んでいる俺は、ようやく着いた一戸建ての自宅のドアをそっと開ける。
大きな音を立てて入りたくないのには理由があった。
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