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第5話 ゆきの目的。
少女の名前は、ゆきといった。
貞享2年、伊勢の国の生まれだという。
あたしが病室で目覚めた日、夜遅くになって、ゆきは再びあたしとコンタクトをとってきた。付きそいのお母さんは簡易ベッドで寝ていて、あたしたちのやりとりには少しも気づかなかった。
それは当然で、あたしたちは念を使ってやりとりをしていて、お母さんの耳に聞こえる、いわゆる『声』は使わなかった。
ゆきから聞こえる念と同じように、あたしもゆきに念を使って意思を伝えることが出来た。ただそうしたいと意識するだけだ、とゆきに言われ、念じたらあっさりとゆきが返事をした。
そうやってやりとりするうちに、あたしの中から、この少女に対する恐怖心がなくなっていった。
不思議なんだけど、『小さい時から知っているイトコ』にでも会ったような、一種懐かしいような気すらし始めて、あたしは困惑した。
よく分からないまま話を進めていくうちに、次第にこの感情の正体がつかめていった。
彼女は本当に、あたしだった。
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