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「ど、どうしたのつむぎ。何? 何もいないわ。大丈夫、落ち着いて」
「少し混乱してますね。小野田さん、大丈夫ですよー。ここは病院ですからね、落ち着いて下さーい」
やっぱりあたしにしか見えてないんだ……!
恐怖と息苦しさにあえぐあたしを、看護師さんが軽くゆする。……と、あたしに巻きついていた黒いヘビがすっと消え、急に身体が軽くなった。呼吸も戻り、重苦しい空気が消える。
ぱっ、と音がしそうなほど鮮やかに、鬼は美しい少女に戻った。
『……分かったわね? あなたはわたし。あの人の口づけを、わたしにささげてちょうだい。長く苦しいこの恋を、終わらせてちょうだい。わたしだってあなたを殺したくない。悪霊になんてなりたくない』
少女の頬を、涙がつたう。あたしはただ衝撃に、少女をぼんやりながめる事しか出来なかった。
『お願いよ。この恋を、終わらせてちょうだい。全身で、あの人を愛してしまったの。忘れようにも忘れられないほどに。……死んでも、死にきれないほどに』
ふう、とあたしの意識が遠くなる。何かに引きずられるように、あたしは再び真っ黒い眠りの底に落ちていく。
『……ねえつむぎ、お願いよ。あの人の、口づけを。わたしの辛く苦しい恋を、終わらせてちょうだい』
『……終わらせて、ちょうだい……』
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