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「はああ、一段落だっ! 竹ちゃん山ちゃん、お疲れ! つむぎも悪かったな。ここまでみっちり手伝わすつもりじゃなかったんだけど……」
お客さまがだいぶ引いて、厨房に余裕が出始めた頃には、時計はもう10時半を回っていた。お父さんが冷蔵庫から缶のウーロン茶を取り出し、それぞれに投げてよこしてくれる。それを開けて流し込んで、湯山さんが口を開いた。
「いやーつむぎちゃん、すごい才能だよねえ。クルトン、バゲットで作っちゃうんだもん。トースターで焼いて、オリーブオイルと粉チーズまぶして、フライパンで炒って。俺、あんなの思いつかないよ。オーナー、マジでつむぎちゃん、料理人になるべきですって。せっかく可愛いのに、裏方ってのももったいないっすけど」
それを聞いてあたし、ウーロン茶を片手ににんまりとしてしまう。
我ながら、あのクルトンは発明だと思ったんだ。
「おお、つむぎさえ良ければ、中学出たらお父さんと一緒に厨房に立つか! うちは商売人の家系だからな、学歴なんかあったって、何の役にも立ちゃしない。 むかしは10歳になれば丁稚奉公に出たもんだ!」
ビーフシチューに火を入れながら、満足げにお父さんが言う。
その時、下げてきた食器をトレイに山積みに乗せて、お母さんが厨房に入ってきた。お父さんの破天荒な提案が聞こえたのか、眉間にシワを寄せている。
「もうオーナー、変な事をつむぎに吹き込まないでくださいね。つむぎはまだ中学2年生なのよ。進路を決めるには早すぎます。大体、今は中卒で修行なんて時代じゃないでしょ。つむぎ、ありがとうね。大変だったでしょ。終わるまで待ってなさい。一緒に帰りましょう」
お父さんに釘を刺してから、お母さんは食器を食洗機に並べつつ、あたしに言った。それを手伝いながら、あたしは首を横に振る。
「ううんお母さん、大丈夫だよ。あたしもう帰るね。見たいテレビあるし」
「だめよつむぎ、もう遅いのに。いくら近いとは言え……」
「あ、俺手が空いたんで、つむぎちゃん送って来ましょうか? 10分もあれば戻って来れますから」
サーバーからグラスビールを3杯注ぎ終わって、竹島さんが言う。そのグラスをまたトレイに乗せて、お母さんは申し訳なさそうにうなづいた。
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