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彼は健康的な色をした逞しい左腕を曲げて大事そうに摩っていた。
その肘には確かに何度も何度も強い衝撃を受け、擦ったり打ったりして出来た、年季の入ったアザがしっかりついていた。
洋一郎の推理に称賛の拍手が鳴り響く。
「ブラーヴォ」
後方から賛辞の言葉が飛ぶ。
「限られた情報の中でそこまで判断できるたぁ恐れ入った」
しみじみと感服したように言葉を紡ぐ本郷は、とうとう自分達の計画を話し始めた。
フロントシートに座っている二人――米澤と松山は上段社の社員。
以前に話しを聞いた通り、上段社の社長である高瀬は、政経界だけでなく幅広い分野にコネクションを持ち顔が利く。
そんな男が小さな出版社の社長で収まっているはずもなく、本業はまた別。
暴力団ではないが、大きな声では言えないような危ない社会の人間らしい。
そんな高瀬の本業の方で部下として働いているのが、本郷を含む三人。
本郷が政府管轄の重要な仕事を任せられていたように、彼等は裏で高瀬があらゆる手を使って、隠密に各業界の中心部にスパイとして入り込まされているのだそうだ。
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