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「お、ありゃあ、クラーラか。丁度いい。おーいっ、クラーラ! こっちだ、こっち!」
手を振りながら呼び掛ける声に気が付いた少女は、男の知り合いであるらしく嬉しげに駆けてくる。
近くの山道までやってきた少女は、山菜かキノコでも採っていたようで大きな籠を背負っていた。年の頃もまだまだ少女といった頃合で、男よりも十は離れていそうに見える。
「おうっ! よく来てくれたな」
少女は山道から外れた草むらにしゃがみ込む男を不審そうに見やる。先ほどの嬉しげな様子とは打って変わった態度だ。
「……ゼルさん、何やってんの?」
「クラーラ、おめぇ、紙持ってんだろ? いつも婆さんから持ち歩けって言われてる奴だよ」
「うん、持ってるけど……」
「それをくれよ。ほら、何してんだ、早くこっち来いよ」
低い体勢のまま大袈裟な動きで招き寄せる男を不審に思いながらも近づいていくクラーラは、そこで何かに気が付いたように立ち止まった。
「もうっ、信じらんない! ゼルさんのアホー!」
男が下半身丸出しでしゃがみ込んでいるのが分かったのだろう。おまけに臭いも嗅いでしまったらしい。鼻を摘んだクラーラが怒りも露に男を非難すると、紙束を叩き付けるように放り投げて走り去る。
「痛っ! おいっ、クラーラ! 痛ぇじゃねぇか!」
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