26人が本棚に入れています
本棚に追加
/189ページ
「いや、そっちだって忙しいだろうしよ、俺は好きにやるから気にしねぇでくれよ。初めての外の町だしよ、じっくりと見て回ってみようかと思ってんだ」
気を取り直したゼルベルトと行商担当の男らが楽しげに会話を始めると、間もなく港に到着した。
ゼルベルトたちが港町へ到着するのと同じ頃、辺境の島には珍しい訪問客を迎えていた。辺境の船頭の案内なしに到着することは、ほぼ不可能なはずのここ辿り着いた者たちがいたのだ。
「ルーカスの船じゃねえぞ。何モンだ?」
「観光客って感じでもないな。遭難でもしたのかもな」
「お、出てきたぞ。なんだ、ありゃ、女か?」
ざわつく辺境の人々の前に姿を現し始める船の乗員たち。遠目からでも分かる長い髪を風になびかせ、薄い衣に身を包んだ艶姿。それはまだ若い年頃の女たちであった。
それは男を余らせた辺境があるように、女を余らせた別の辺境があったというだけの話だ。ニーズの完全一致と、新しい風は辺境の島に好影響をもたらすに違いない。
もしもゼルベルトが出立する前に彼女たちがやってきていたとしたら。
もしもゼルベルトの好みに合う女がその中にいたとしたら。
彼が旅立つことは、ひょっとしたらなかったのかもしれない。この運命神の気まぐれは、彼のみならず誰にどのような影響を及ぼしていくのであろうか。
最初のコメントを投稿しよう!