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いそいそと店に入るゼルベルトだが、中で迎え撃つのは漁を終えて飲んだくれていい感じに酔っ払った漁師たちだった。さすがのゼルベルトも昼間から酒臭い連中に嫌な顔をしたが、それよりも腹を満たすことの方が先決だ。周囲を無視してカウンター席に座ると注文を始めた。
「おう! オヤジ、なんか軽い酒とボリュームのあるメシを頼む。肉がいいな。ここ2日なんも食ってなくてよ、腹減ってんだ。ほかにもすぐに出せるもんがあったら出してくれよ」
「……お前、見ない顔だな。金は持ってんのか?」
「心配すんな。なんなら前払いすっからよ」
ゼルベルトは腰に括りつけた黒の革袋から硬貨を一枚取り出すと、カウンターに置いてスッと差し出す。
「大銀貨か。ふんっ、残しやがったら承知しねぇからな」
ニヤリと笑って料理の準備に掛かる店主であった。
ゼルベルトが持参した金は、オババというか辺境からの餞別である。まさか無一文で放り出すほど薄情な人々ではない。彼が狩人として辺境の集落にもたらしてきた利益は相当なものがあるし、実は辺境の集落は貴重な魔獣素材の売却によって、非常にリッチなのだ。旅立つ若者に大金を送っても痛くも痒くもないほどの稼ぎも蓄えもある。
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