港町の天下無双

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 餞別として送られた金は、小金貨が20枚と大銀貨が100枚。小金貨1枚の価値は食事代に限った場合、常人なら贅沢さえしなければ、90日は持つだろう。ゼルベルトの場合は大食らいなので、30日も持てばいい方だろうが、それを20枚。大銀貨は10枚で小金貨1枚と同じ価値を持っており、それがさらに100枚。太っ腹である。だが、宿代などの旅費や旅の必要経費を考えれば、しばらくは持つものの、しっかりと稼がなければすぐに底をつく程度の金額とも言える。決して油断は出来ない状況のはずだが、ゼルベルトがそれを認識しているかは望み薄だろう。  ゼルベルトは給仕のおばちゃんの持ってきた泡立つ酒を一気に飲み干すと、すぐさまお代わりを要求して、つまみに出された辛味のある豆を豪快にほおばり、続けて出された魚のマリネも一気に食べ尽くす。美味そうに飲み、美味そうに食う奴である。続けて店主が簡単に作った卵と肉の炒め物を熱々の状態にも関わらず、これも豪快に酒で流し込みながら消化していく。店主はその様子を見ながら満足げに次の料理に取り掛かるのだった。  その様子をなんとなく呆気に取られて見ていた荒くれ者の漁師たちが我に返った。 「……って、おい! そこのお前、見ねぇ顔だがどこのモンだ!」 「てめぇ、いいガタイしてるじゃねぇか! 男なら俺と勝負しろ!」 「ボーデヴィンに勝ったらここは俺が奢ってやるぞ、若いの!」 「男なら逃げんじゃねーぞ、こら!」  まだまだ腹が減って食い足りないが、人心地はついたゼルベルトだ。だが、外の町に着いて早々いきなり喧嘩をするような気にはなれなかった。だからこそ、大人しくしていたのだが、そうまで言われて引き下がるような男ではない。     
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