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壊したテーブルや椅子の弁償をさせられた上、店主に一発ずつ殴れたゼルベルトと漁師たちはなぜか意気投合を果たしていた。追い出された彼らは近所の同じような店に場所を変えて、何がおかしいのか笑い合いながら楽しそうに酒を飲んでいた。
「だーはっはっはっ、おめぇらも相当な好きもんだぜ」
「がははっ、そのときのコイツが傑作でよ!」
何を言っているのか分からないが、きっと下品な会話に違いない。周りの客も同じようなものなので、誰も気にしていないのが幸いなのか残念なのか。
そのまま飲んで食って笑いあって、しばしの時間が過ぎる。ずっと楽しそうであったが、夜もふけてくると、漁師たちが時間を気にし始めた。
「悪いな、これ以上遅くなると母ちゃんに怒られちまうよ」
「俺もだ。かみさんがガミガミとうるさいからな。先に帰るぜ」
帰る家がある男たちは家族が気になるようだ。それを咎めるほどゼルベルトも野暮ではない。同じタイミングで全員で店を出ると、快く彼らを見送るが、そこでふと気が付く。
宿がない。ゼルベルトはあらかじめ宿を取っておくなどといった気の利いたことをしているはずもなく途方に暮れた。だが、そこで何人もの視線を集めていることに気が付いた。
女だ。それもまだ若い、自分と同じような年頃の女。ゼルベルトは急激に体が熱くなるのを感じた。
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