港町の天下無双

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 ハマった。とにかくハマった。若い女との甘美なひと時に溺れた。若いといっても、それほどの器量よしではない。ここはド田舎の小さな町にすぎないのだ。稼げる女は、より稼げる都会に行ってしまうのが普通だ。ここに残っているのは、押して知るべしだろう。だが、若いというのはただそれだけで掛け替えのない武器になる。ゼルベルトが(とりこ)になっているように。  朝まで女を抱いては夕方まで眠る。それから町に繰り出しては仲良くなった漁師たちと、酒場で好きなだけ飲んで食う。メシは辺境に比べれば余り美味くはないが、珍しい料理がたくさんあって面白くはある。腹を満たせば誘ってきたプロの若い女をまた朝まで抱く。荒くれ者の漁師たちと喧嘩をしては仲直りをして肩を組んで笑いあう。そんな生活をただひたすら繰り返した。  辺境を出るときに持たされた金は大金だったが、こんな生活を送っていては早々に尽きる。  まさしく、あっという間に使い尽くした。 「金がねぇ……」  当たり前だ。何を嘆くことがあろうか。  またこれも当然のことであるが、ゼルベルトは自称トレジャーハンターであっても事実上の無職である。おまけに金を稼ぐ当てもない。  羽振りのいいときはモテまくったゼルベルトだったが、金がなくなるにつれ、すげなく扱われるように変わってきてしまった。やはり世の中金なのか。馴染みの女にもツレなくされ、少々落ち込むゼルベルトであった。女殺しの二つ名も泣こうというものだ。  そこで彼は思い直す。無償の愛、それこそが自分の求める物であったのだと。     
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