港町の天下無双

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 仲良くなった漁師に軽食を奢ってもらいながら(くだ)を巻いていると、事情を知っている男がゼルベルトに軽く提案をした。 「なぁ、ゼルさん。あんたクニじゃ猟師をやっていたんだろ? メシが食えねぇなら、自分で山で獲ってくるってのも手じゃねぇか?」 「……今の俺はもう狩人じゃねぇんだがな。だが完全にすっからかんになっちまったし、しょうがねぇ、ここは一つ山にでも行ってみるか」  食事代にすら困る懐具合になってしまったゼルベルトは、元狩人としての力で当座を凌ぐことを決意した。幸いにも近隣にちょうどいい獲物がいる山があって、山の方の猟師が不足している港町にあっては臨時であっても歓迎されるようだ。  ゼルベルトの猟のスタイルは至極シンプルだ。ただ単に獲物に近寄って殴りつけるだけだ。なんの道具も準備も要らない。魔獣はただの野生動物とは違って好戦的だから、武力さえあれば狩るのは比較的容易い。標準的な人間に真似が出来ることではないが、辺境の狩人にとっては日常茶飯事だ。特別なことでもなんでもない。  思い立ったが吉日、翌朝の早い時間から、さっそく山に入ったゼルベルトは案外大きく広い山の様子を見ても、なにやら不満げだ。     
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